AIが変える民主主義 - 2024年東京都知事選が示した「近未来の選挙」

2024年の東京都知事選は、「AIなどの先進的なデジタル技術が本格導入された最初の選挙戦」として今後語り継がれることになると見ています。

注目すべきは、5位に食い込んだAI起業家、安野たかひろ氏の革新的な選挙活動です。
無名候補でありながら154,638票(得票率2.27%)を獲得した安野氏の戦略は、今後の政治参加と民主主義のあり方に大きな影響を与えることになるでしょう。

彼が行った「AIなどの先進的なデジタル技術を駆使した選挙戦は、技術に明るい多くの人の注目を集めました。

また、自らが結果を出しただけでなく、選挙戦を終えるにあたり、今回の選挙戦で改善しつつ作り込んだツールのすべてを、誰でも使えるように公開されるそうです。

今後の選挙戦では、今回開発されたツールのようなものが大いに使われるようになるでしょう。
そのような選挙戦があたりまえになったとき、世界はどうなるのでしょうか。

選挙期間中に「これはすごいことが起きている」と強く感じ、実際に都内まで足を運び、演説会の場を見てきました。

今回は、この画期的な選挙戦略とその潜在的影響について、「IT技術の活用」という視点から、現場で感じた僕の所感を交えてお伝えしたいと思います。

安野たかひろ候補者演説会の様子

安野たかひろ候補者演説会の様子

東京都知事選が世界に与える影響は存外大きい

まず前提を示すと、東京都の予算規模は、15兆円強です。
この数字は、ノルウェー、スウェーデン、オーストリアなどの中規模国家の国家予算に匹敵する数字です。

「東京都」自体に知名度、ブランド力もあります。
しかもこれだけの予算の自治体の首長選挙ということで、実は東京都知事選が世界に与える影響力というのは、存外に大きいのです。

ポイント

安野たかひろ氏の選挙戦略のうち、AI・先端デジタル技術絡みの部分をまとめてみました。

  1. オープンソース技術の基盤を駆使した、有権者との対話の場の形成
  2. AIを駆使した、有権者への情報公開の場の形成
  3. データ駆動型の選挙戦略の効果的な実践
  4. 選挙ツールのオープンソース化による民主主義の平等性向上

以下、各項目について具体的に書いていきたいと思います。
(関連リンクは最後に示します)

1. オープンソース技術の基盤を駆使した、有権者との対話の場の形成

安野氏のチームは、GitHubを使用して政策マニフェストを公開・更新するという革新的な手法を採用しました。
GitHubはソフトウェア開発者がコードを共有・管理するプラットフォームで、プロジェクトの設定次第で、誰でも自由に意見したり修正提案したりその修正提案について対話したりすることができます。

安野氏のチームは、これを政策形成に応用したのです。

この手法により、より広範囲からの建設的な意見を取り入れられるようにしました。

当初100ページほどだった政策マニフェストは、80件以上の提案が取り入れられ、選挙期間中に随時更新されて最終的には130ページまで拡充されました。

2. AIを駆使した、有権者への情報公開の場の形成

安野氏のチームは「AIあんのくん」という、政策に関する質問に24時間対応できるAIシステムを開発・導入しました。
このシステムは政策マニフェストの内容を学習し、有権者からの質問に自動で回答する機能を持っています。

このシステムにより、有権者はいつでも候補者の政策について質問できるようになりました。
人間のスタッフによる対応には限界がありますが、この制約を取り払ったのです。

AIを活用することで、より多くの有権者との対話が可能になりました。
また、政策マニフェストのファイルを開かなくとも、候補者がどのような政策をどのように実現したいと思っているのかという情報を得られるようにしました。

3. データ駆動型の選挙戦略の効果的な実践

安野氏のチームは、データを効果的に活用した選挙戦略を展開しました。

特に注目されたのは、ポスター掲示に関する取り組みです。
都内の14,000箇所におよぶポスター掲示場所のデジタルマップを作成し、掲示状況をリアルタイムで把握・可視化しました。

このマップはヒートマップ形式で表示され、ポスター掲示の進捗状況が一目で分かるようになっています。
さらに、このシステムにゲーミフィケーション要素を取り入れ、ボランティアの方々がポスター掲示を競い合える仕組みを構築しました。

これにより、低予算でありながら、離島を含む都内全域のポスター掲示場所にポスターを掲示することができました。
このアプローチは、限られたリソースを最大限に活用する効果的な手法として大変興味深いです。

4. 選挙ツールのオープンソース化による民主主義の平等性向上

そして、安野氏のチームは、選挙戦で使用したツールを選挙後にオープンソース化するということだそうです。

これらのツールをオープンソース化することで、今後の選挙で他の候補者も自由に活用できるようになります。

この取り組みは、選挙の公平性と機会の平等性を高めるだろうと思います。
また、このオープンソース化は、選挙プロセスの透明性向上にも貢献すると思います。

選挙の世界では「地盤、看板、カバン」が重要とされてきましたが、「提示される政策と実行力が重要になる」という、民主主義社会が本来あるべき姿により近づくのかもしれません。

「オードリー・タン氏」に比肩する日本人がこれからどんどん出てくる?

東アジア圏では、政治や社会の仕組みを大きく変える技術者として、台湾の政治家オードリー・タン氏が有名です。
「新型コロナウイルス」拡大初期に「マスク供給地図」などを作り台湾での感染拡大に大きく貢献されていたことなどは、覚えていらっしゃる方もいるかもしれません。

本物の「エンジニア」が「選挙のアップデート」をしかけてきた

実は、安野たかひろ氏も、オードリー・タン氏と同様の、バリバリの「エンジニア」です。

  • 日本のAI研究の総本山とも言われる東大工学部の「松尾研」を卒業
  • 経済産業省認定未踏スーパークリエータ
  • ボストンコンサルティンググループを経由して、AI系の会社を創業

そんな彼のチームが行った選挙戦での活動は、とてもユニークなものでした。
彼のチームは、選挙戦をやりながら、政策、選挙戦の進め方をどんどんアップデートしていきました。

  • アナログだから無理なのかな、無理なんだろうな
  • 「個人のノウハウ」として、なんとなく曖昧になっているよな

と思っていたようなことが「そうそう、それそれ!そうやればすっきりするよね!」と、いう形でどんどん解決していく様子には、見ていて心地よさがありました。

「本物のエンジニアが改善をしかけるとこうなるのか」という感じです。

僕も(東京都民ではないのですが)、演説会を聞きにいきました。

  • メガネ、車椅子などを引き合いにした、「テクノロジーは人を助ける」
  • 技術が発展したのに、選挙の仕組み自体は100年前からアップデートされていない。有権者からの期待と政治の成果とがもっとはっきり関連するようにしたい(*1)

等々、単なる書類行政や予算の使い方の効率化という枠を超えたメッセージには特に惹かれました。
(*1) 僕の意訳が入ってますが、一行でまとめるとこんな感じでした

しかも、安野氏の年齢は、まだ33才。

「日本でも、こういう人が出てきたか...」と感慨深いと同時に、「これからも、こういう人がどんどん出てくる世界になるんだろうな」と、今後10年、20年先の世界に対してもワクワクしています。

安野氏自身がこれからどうなるのか、あとに続くどんな人材が出てくるのか、日本はどうなっていくのか、世界の選挙戦はどうなっていくのか、等々。
楽しみがつきません。

というか、僕もITを教える仕事をしていますし、こういう技術レベルの人の仕事の価値が分かる人、こういう技術レベルの人の仕事をさらにブラッシュアップできる人を育成するというのが僕のやることですね。
「今できることをしっかりやりたいな」と、元気づけられました。

参考リンク

走りながらの改善記事系

以下の2つは、技術に興味のある方にも、「ドタバタ劇」のようなものを覗いてみたいという方にもおすすめです。
選挙戦を戦いながら改善をくりかえしていった様子が感じられる良記事

【AIあんの】~ポストモーテム大公開~ 障害の裏側、知見と反省点を共有します
https://note.com/annotakahiro24/n/n935287ed888b

【開発からリリースまで4日間】 選挙ポスターマップ開発の舞台裏(技術編)
https://note.com/annotakahiro24/n/nb7c6d5d5f172

マニフェスト

一般向け: 東京都知事選の「参加型マニフェスト」を公開します
https://note.com/takahiroanno/n/n38a34f107867

まあまあ一般向け: 選挙期間中に85件の提案を受け入れています。
https://github.com/takahiroanno2024/election2024/pulls?q=is%3Aclosed

技術者向け: GitHubリポジトリ
https://github.com/takahiroanno2024/election2024

技術者向け: 「プルリクエストマニュアル」も、一般の方向けということを想定して、非常にシンプル。僕も参考にしたい。
https://manifest.takahiroanno.com/manual_pull_request/

【AIあんの】についての技術者向けにはこちら:
https://note.com/jujunjun110/n/n0362b324831f

選挙掲示板マップマップ
https://anno-poster-map.netlify.app/

公開日時: 2024/07/08 14:30