「言葉によるラベリング」と「記号化」

前回のメルマガで、「データ分析や情報伝達において、情報はしばしば要約される」ということを示しました。

「要約」とは、情報やデータの分量や複雑性を削減し、情報提供者が重要と考える、あるいは強調したいポイントを簡潔に伝えるプロセスです。
要約は非常に有用ですが、要約が持つポテンシャルと同時に、誤解やミスリードのリスクもあることを前回お伝えしました。

たとえば、「2021年の日本全体の平均年収は547万円」という一文からは、「547万円くらいの年収の人がいちばん多く、年収の分布は547万円を中心に正規分布しているのだろう」という印象を抱きがちです。
しかし、統計を読むスキルが不足していると、このような印象はミスリードの元になります。

正しくはどうかというと、100万円単位で分割すると、年収200-300万円の層がいちばん厚く、全体の13.9%。年収500-600万円の層は8.9%です。
年収100万-400万円の層だけで全体のほぼ4割を占めています。

厚生労働省資料:
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa09/2-2.html

もっと言えば、この厚生労働省資料も、「労働を1年間継続して収入を得て、支出をしてきた一人ひとりの生活」についての要約でしかありません。


要約は世界をざっと把握するためのよいツールではありますが、その扱い方は要注意です。

要約とは、「数値化」だけにとどまりません。
あるゆる言語化、記号化とは、すなわち要約です。

「あれは虹である」、「あれはホリエモンである」といった言葉によるラベリングや、「非常口マーク」や「放射性危険物マーク」のような記号化においても言えることです。


「平均年収547万円」は「平均年収は547万円」という言葉で表現できる以上の何かであり
虹は「虹」という言葉で表現できる以上の何かであり
ホリエモンは「ホリエモン」という言葉で表現できる以上の何かであり
非常口マークは「非常口マーク」という記号で表現できる以上の何かであり
放射性危険物マークは「放射性危険物マーク」という記号で表現できる以上の何かです


たとえば、「そこに虹がある」と気づいたとき、虹のできる仕組みについての知識があれば、太陽光とその虹との間にある雨粒や雨粒によって起きた光の屈折を想起することができます。
扉に「放射性危険物マーク」を見たとき、放射性物質やその扱い方についての知識があれば、ただ恐れるだけでなく、その扉の向こうにあるであろう物質が何なのか、それはどういう性質ものなのか、どのように保管されているかといったことを想起することができます。


要約のために使われた記号を見たとき、要約されてしまった存在の全体像をどこまで奥行き深く気づけるかは、その人の得てきた「地図」、すなわち気づくための情報と、「気づく力」次第です。
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前回配信のメールマガジン
「要約」とはすなわち「ミスリードの起点」
https://forum.pc5bai.com/tips/longshot/14ab0c3b-05a6-4308-9b87-cfc629749f5f/

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